シーカヤックのはなし

シーカヤック
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ツアー参加のお客さまにご利用いただく”シーカヤック”について少しだけお話しを。
参加前にご覧いただき、小さいけれど頼もしいシーカヤックについて興味を深めていただけたらうれしいです。

シーカヤック キホンのキ

「シーカヤック」は、「海」で乗ることを目的に作られた「カヤック」という種類の船です。
「カヤック」は、人力で動かすことを前提に作られた小さな船で、使用するロケーションや使い方に応じて「シーカヤック」「リバーカヤック」など、いくつかの種類があります。見た目の形や大きさが結構違っていたりしますが、一般的には、「乗船者が進行方向に向かって足を伸ばした状態で座り、ダブルパドルと呼ばれる道具を使い水を掻くことで推進力を得るように作られた船」を「カヤック」と呼んでいます。(言葉にするととてもわかりにくいです!)線引きが曖昧なところもありますが、この条件が当てはまるものにおおむねカヤックという呼び名が付けられています。
海で乗るシーカヤックにもいくつかのタイプが存在していてますが、ほかのカヤックと違う最大の特徴は、直進安定性に特化した細長いスタイルです。長いものだと、23ft(6.9m)近いものもあります。

ツアーで使用するカヤック

私たちがツアーで利用しているシーカヤックは、ほとんどが北米デザインの「ツーリングシーカヤック」と呼ばれるタイプです。
ツーリングシーカヤックは旅行の足となる道具で、かなり大量の荷物を積み込んでも人力で安定して進めることができます。
特に北アメリカ製のものは、大柄で頑丈なものが多く、安定性と漕波性、積載力の高さが際立っています。漕ぎ出しは重いですが、一度スピードに乗るとガンガン進んでいきます。日本人にはあらゆるところがちょっと大きく、操作性や俊敏性もヨーロッパや日本デザインのものに比べると劣りますが、漕ぎ手の技術はさほど要求されず、初めての方にも扱いやすいです。
元々は、10日分ぐらいの生活道具を積み込んで遊びに出かけることを目的に作られていますので、短時間のツアーに利用するのは、少々オーバースペックです。しかし、積載力を活かして、「浜カフェ」グッズなど、お客さまに快適にツアーをお楽しみいただくための道具を詰め込むには最適で、積載時の操作性や機動力は素晴らしく、本当に頼もしい造りになっています。世界中のツアーオペレーターが利用しているのも納得のデザインです。

シーカヤックの生まれ故郷

ツアーでお客さまにご利用いただく「ツーリングシーカヤック」は、北極圏やツンドラ地帯に暮らすイヌイットやエスキモーが狩猟や移動の道具として作り出した船が原型です。
流木やアザラシの骨などを使って細長い筒状の骨組みを作り、出来上がった骨組みにアザラシの皮などを貼り付けて作られています。接合部には獣脂を塗り込んで完全防水の船体を実現していました。凍てつく北の海での使用が前提なので、乗っている人が極力冷たい海水をかぶることがないように考えてデザインされています。
カヤックは、人が乗り込むと、外にさらされているところがお腹から上だけになります。さらにアノラックやパーカー(どちらも起源は極北に暮らす人たちが着ていたアザラシ皮のフード付きジャケットです)を着込んで裾をカヤックの狭い搭乗口に結びつけると、手と顔以外は外にさらされない状態になります。小さな潜水艦にお腹から下を潜り込ませて座っているような感じなので、完全防備すると浸水はおろか濡れることすらほとんど無くなります。そして、万が一転覆しても、パドルを巧みに操って起き上がる「エスキモーロール」という技術を完成させ、船体もそれに応じて進化させました。この技術により、冷たい海に乗船者が投げ出される確率を低くし、高度な安全性能を築き上げました。
現在、私たちが遊び道具として使うシーカヤックも、原型は過酷な条件下で使うことを目的とした生活道具だったので、ある意味非常に安全性の高いデザインとなっているのかもしれません。
以前(といっても1980年代)、大阪の万博記念公園にある国立民族学博物館にイヌイットが作った本物のカヤックが展示されていました。今のようにインターネットのない時代で、情報欲しさに幾度も通ったのでよく覚えています。今は倉庫に眠っているとのことで実際に見ることはできないのですが、ビデオコーナーでいくつかの資料映像は見れると思います。興味のある方は一度訪ねてみてください。

カヤックとカヌー?パドルとオール?

お客さまからよく尋ねられることに「カヌーとは違うんですか?」というのがあります。
少し紛らわしいのですが、カヌーとカヤックは、漕ぎ方に決定的な違いがあるため、船体が似ているものもあるのですが、完全な別物になります。
「カヌー」は、カヤックと同じく進行方向に向いて座るのですが、足は伸ばさず、膝立ち(正座するような形)で座っています。そしてシングルパドルといって、カヤックで使うダブルパドルをちょうど半分にしたような形のパドルを使います。また、カヤックの船体がクローズドデッキと呼ばれる上部が覆われた構造になっているのに対し、カヌーは、オープンデッキといって上部が完全に解放されている、お椀のような構造になっています。
使うパドルや、着座姿勢が違うので、当然ながら、漕ぎ方もカヤックとは違っています。
競技になるとかなり明確に区分けされていて、リオ五輪で銅メダルを獲得した羽根田選手が乗っているのは、クローズドデッキですが、シングルパドルを使い膝立ち姿勢で漕ぐ「カヌー」になります。
もう一つお客さまがよく口にされる言葉に「オール」というものがあります。「パドル」のことを「オール」と呼ばれるのですが、この二つ、実はまったくの別物です。
「オール」というのは、船体に取り付けた支点があり、てこの原理を使って動かす道具で、「ボート」を漕ぐ時に使います。公園の池などにある貸ボートを思い浮かべていただけたら良いのですが、「オール」を使う船はすべて進行方向とは反対の向きに座ります(後ろ向きに進みます)。

シーカヤック選び

お客さまの中には、「趣味として始めてみたいので、とりあえず体験」ということでツアーに参加される方も結構いらっしゃいます。
ふと思い立ってgoogleなどで検索をかけると、商品情報としてさまざまなタイプがヒットするため、最初はみなさん戸惑われることが多いと思います。2,3万円のものから100万円近いものまで価格帯もさまざまです。構造的には単純なので、自作する人もたくさんいます。特に海外では、ベニヤ板などを使って自作する人がたくさんいて、製作に関するハウツー情報や図面は、ネット上にたくさんあります。器用さに自信のある方は一度調べてみてください。うまく作ればコストパフォーマンス抜群です。
市販品を選ぶ場合、価格だけを参考にするのは少し乱暴かもしれませんが、価格帯により使える海域が限定されると思っていただいて、ほぼ間違いはないと思います。
安価かつ通販などで簡単に手に入るものは、シーズン中の海水浴場や波止で人工的に区切られた湾内など、風や潮、海流やうねりの影響を受けにくい海域限定です。波止の外や管理海域を少しでも出たいと思ったら、高額でなおかつ、本体とは別に技術や知識の習得無しには扱えない商品が必要となります。
穏やかな海でさほどの違いが見いだせなくても、少しでも風が吹いたりすると、タイプによってかなりの差が出ます。
人力の乗り物ですので、特に免許などは必要ありませんが、海上にも交通ルールがあります。海域によっては使用の規制がされているところもあります。いずれの場合も道具以外にそれらの情報を自身で収集し理解しておく必要があります。
暖かい時期限定でちょこっとだけ海と戯れたい場合と、より深く海を楽しみたい場合とでは、やはり、道具やかける時間が変わってきます。
シーカヤックに限らず、自然相手のアクティビティーにおいては、より深く濃密にと思ったら、時間と手間、それにまつわるお金もかける必要があるということではないでしょうか。

シーカヤックの魅力

考えてみると、厚さ1cmにも満たない船体に身を任せて海に浮かぶのですから、少々おっかない気もします。逆に考えると、余計なものを介さずに海に浮かんでいるわけで、それだけ純粋に自然と触れあえているのかもしれません。むき出しの自然環境は、時として脅威をもたらしますが、触れることを許された時のありさまは、優雅に優しく、みずみずしくて、そこはかとない美しさに満ちあふれています。
気ままな海上散歩や数日間のツーリング、いろんな楽しみ方はありますが、気が向いたらぜひ一度、波間にたゆとうシーカヤックの浮遊感覚を体験してみてください。
瀬戸内牛窓の海は、穏やかな笑顔でみなさんの来訪を待っています!